胃ケイレンをなおすには

2023-04-293分間指圧

モンローを指圧

浪越徳治郎の『自分でできる3分間指圧』(実業之日本社 昭和42年刊)は、来日したマリリン・モンローを指圧したエピソードから始まります。モンローは胃ケイレンになりホテルで苦しんでいたのでした。

私は、さっそく指圧にかかりました。ベッドに上がり、うつぶせになっている彼女の体に、馬乗りにまたがって、まず、左の肩甲間部5点目(むかしからシャク止めの急所[ツボ]といわれているところ)を、グウッーとおさえたのです。両方の親指を重ねて、体重がその上にのしかかるようにして、一おし約五秒くらい、これを五、六回もくり返したでしょうか。効果はテキメン、彼女は握りしめていた手をひらき、曲げていた足はのばし、くねらしていたからだは真直ぐになり、緊張していた筋肉がグツタリと柔らいで来たのです。これは痛みが去った証拠です。この間わずかに三分、まさに3分間指圧でした。
(浪越徳治郎『自分でできる3分間指圧』P12)

このあとモンローの肌に触れた徳治郎先生の感想(ちょっとエッチにも思える(笑))が書いてありますが、ここは本題とはずれますので割愛して…

左の肩甲間部5点目

上記にある「左の肩甲間部5点目」というのが一般的にはよくわからないだろうと思われます。「むかしからシャク止めの急所[ツボ]といわれているところ」とありますが、そもそも「シャク(癪)」という用語が今は使われなくなっています。

昔の時代劇で旅をする女が道端にうずくまって「持病のシャクが…」と苦しむふりをして懐をねらう、などというシーンがよくありましたが、そんな場面も今は見ないですね。

「シャク(癪)」とは「胃痙攣」とか「横隔膜痙攣」とかいうものにあたると思われます。

「左の肩甲間部5点目」とは、脊柱起立筋の際で胸椎7番の高さです。

『指圧療法学』石塚寛(日本指圧専門学校)によると肩甲間部の指圧は「第一胸椎棘突起のやや外方を1点目とし、左右の肩甲骨下角を結んだ線まで5点取る(下図参照)」とあります。「左右の肩甲骨下角を結んだ線」とは胸椎7番の高さになります。

また、『カラー版経穴マップ第2版』王暁明(医歯薬出版)によると、胸椎7番の高さとして

  • 「BL17:隔兪(かくゆ)」(上背部,第7胸椎棘突起下縁と同じ高さ,後正中線の外方1寸5分)
  • 「BL46:隔関(かくかん)」(上背部,第7胸椎棘突起下縁と同じ高さ.後正中線の外方3寸)

があり、これらの経穴の主治として「横隔膜痙攣」が記載されています。

胃ケイレンをなおすには

具体的な指圧のやり方が説明されています。

患者をうつぶせにして、背中の上に馬乗りにまたがり(この姿勢で力が強く入ります)、右の親指をこの五点目におき、左の親指をその上に重ね、肘をのばして、親指に体重がのしかかるようにして、グウッーとおさえるのです。
一おし約五秒くらいで五、六回くり返しておしてください。それだけでたいてい楽になります。(浪越徳治郎『自分でできる3分間指圧』P16)

「左の」肩甲間部5点目なので、右の親指が下になります。
右の四指は患者の胸脇にあてて、そこから親指は背骨をまたぐように背骨の左側に伸ばします。手の平は背中につけないよう浮かしておきます。

左手は右手に添うように置き、これも四指は胸脇にあてて、重心が施術者の正中になるよう支える役目をします。

図では背中の中ほどに置いていますが、これだと下手に体重をかけると肋骨を骨折させる危なさがあるように思います。手の平を浮かせるのも重みは肋骨にかからないようにするためです。指圧はあくまで「指」の「圧」です。

もしもこれで楽にならないようなら、次のような手技を加えるということです。

それでもまだ痛むようでしたら、5点目から一指くらい下のところ、背筋の上を、第5腰椎の横で、骨盤にぶっつかるところまで一おし三秒くらいの速度で指圧してください。これは左右五、六回くらいずつ交互にくり返してください。

つぎに、あおむけにして、ミゾオチ(胃のところ)へ、軽く右の手のひらを当て、掌圧をしてください。五、六分もすれば、スヤスヤと寝息を立てて眠りますから、静かにフトンをかけて、そのままやすませてください。(同上)